<大川小事故>犠牲者ゼロへ命の教育

防災参観日に津波避難について学ぶ上川口小児童=5月19日、高知県黒潮町

 南海トラフ巨大地震の「犠牲者ゼロ」を掲げる高知県黒潮町。町教委は2015年3月、独自の津波防災教育プログラムを作成した。東大大学院の片田敏孝特任教授(災害社会工学)が協力し、「命の教育」を根幹に据える。
 特徴は「指導の心得」を記した24ページの冊子。「何としてでも生き抜く力を身に付けさせる決意で創意工夫する」「知識ではなく、姿勢を伝える」など、教員の基本姿勢を詳しく説いた。国友広和学校教育係長は「防災教育には教員の正しい理解と熱意が不可欠。教え方が下手でも、熱がこもっていれば届く」と語る。
 最大9メートルの浸水が予想される上川口小(児童44人)で5月19日、防災参観日があった。高台避難と保護者への引き渡し、炊き出し訓練を半日がかりで行う。
 「津波から命を守るために、大人の言うことを聞いて行動する。賛成の人?」
 訓練に先立ち公開された授業で、2、3年の複式学級担任の浜口まや教諭(55)が児童に問い掛けた。
 ほぼ全員が挙手する中、女児1人が反対し、「大人の言うことを聞いて足が止まったら、避難が遅れてしまう」と述べた。
 全員で活発に意見を出し合い、「時には、聞けないこともありそうだね」と結んだ浜口教諭。終了後の取材に「教師も間違う。最終的には自分で判断し、命を守れる力を付けてあげたい」と話した。
 浜口教諭は過去、町主催の東北被災地研修に参加。教師も間違うとの自覚が常に学ぶ姿勢を生み、心を揺さぶる指導につながった。
 「もし先生が地震で何かに押しつぶされていたら、あなたたちは助ける?」
 6年担任の女性教諭はこう問い掛けた後、「逃げなきゃ駄目。各自で判断して逃げて」と強調した。子どもの避難を巡り明暗を分けた石巻市大川小と釜石市鵜住居地区の小中学校の事例を紹介し、「率先避難者」になる意義を伝えた。
 「率先して避難すれば、自分以外に多くの人の命を救える」「親は絶対に逃げていると思って自分も逃げる」。児童は次々に感想を発表した。
 同小は毎月20日を「家族防災会議の日」に設定する。担任教諭は「1人の時に地震が起きたら、親子で信頼がないと避難できない」と述べ、避難場所を話し合う宿題を出した。
 石川真紀校長は「学校は多忙と言われるが、命を守ることは最優先。命を預かる私たち教職員は大川小から学び、できる限りのことをしなければならない」と言い切る。
 東北で起きた悲劇は約1000キロ離れた教育現場に届き、生かされていた。

◎アンケート・東南海では

 河北新報社が教育研究者と共同で実施した東南海7県沿岸部の小学校アンケート(回答数269校)で、87.0%の学校が防災マニュアルに津波対応を規定。震災を受け、急速に見直しが進む一方、現場には温度差も生じている。17.1%の学校は津波に対する意識の低下や教職員間の格差を実感。13.4%が防災教育を「困難」「今はできていない」と答え、そのうち大半は「多忙で余裕がない」を理由を挙げた。


2018年06月06日水曜日


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